2011年8月22日月曜日

緊急手術

今日は、赤ちゃんが一人、お腹の病気で緊急手術になりました。

あいにくこの国唯一の小児外科医が不在でしたので、代わりに
この国唯一の脳外科医が執刀してくれて、先程無事終わりました。

脳外科医が赤ちゃん(新生児)のお腹の病気の手術をするのは、
日本ではまず考えられない事です。

しかしブータンでは、日常茶飯事です。
逆に、小児外科医が頭の手術をする事もある。

例え、経験があっても、なくても、
そこに居る人で、そこにある物で、いのちを救うために、
今出来る最大限のことをただひたすらにするしかない。

それがここの医療です。

そして、これがきっと世界中で営まれている
医療の原点なのだと、日々改めて思いながら、
彼らとともに汗し、
最善を尽くす日々です。

今ここにいる
赤ちゃんとその家族の幸せを守るために。





2011年8月14日日曜日

旬の味覚と病棟ランチ

最近めっきり肌寒くなって来たティンプー。
ティンプーでは8月はもう秋です。

週末、野菜市場に出かけると、秋の味覚、「マツタケ」や
「セセシャモ」と呼ばれる黄色いきのこが旬でたくさん
店頭に並んでいます。

大家さんにもらった立派なマツタケで、創作和風ブータン料理を作ってみました。



タッパに入っているのは、病棟に持っていってお昼に皆で食べるためです。
小児科、新生児科の病棟では、毎日、病棟にある炊飯器でお米を炊いて、
各自持ち寄ったおかずを分け合い、お昼ご飯を一緒に食べます。

小児科部長からは患者さんにもらったという「セセシャモ」をお裾分け
してもらいました。こちらは、彼に教えてもらったブータンレシピで、
「シャモダチ」(きのことチーズのカレー)に挑戦。
これも病棟に持っていき、仲間にお味見してもらいました。


この「病棟ランチ」、一人でご飯を食べる事が嫌いな私にとっては、
とっても有り難いシステム。

文字通り「同じ釜のメシを食う」仲間といった感じで、苦楽を共にする病棟の
看護師さんやドクターとも、何だか連帯感が感じられるから不思議です。

2011年8月10日水曜日

オンコール

今週、月曜日から日曜日は、私がオンコール(当番)にあたっています。
オンコールとは、時間外に入院中の患者さんの急変、または入院が必要な
患者さんに対応する当番の事をいいます。

日本では「当直」と言って、病院の中の当直室に待機しますが、
ブータンには当直室はありません。

医師が少ないので、当直シフトを組むことができないのです。

そのかわり、ドクターをはじめ病院職員は、院長も含めて、病院の敷地内
に用意されている職員宿舎に住んでいます。

まさに究極の職住近接です。

しかし、昨今厳しいティンプーの住宅事情を考えると、痛し痒しといった
ところのようです。


医療費が無料のブータンでは、患者さんは時と場所を選ばず、診療を求めて来られます。
休みの日にドクターの家にやって来て、診てくれという患者さんも珍しくありません。
しかしそういう人は大抵、知り合いや友達、親戚だったりするので、ブータンの人は
決して断りません。
小さな社会であるブータンでは、誰でも何処かでなにがしかの繋がりがあるので、
事実上、断る事はできないのです。


私は病院から歩ける距離に住んでいますが、いくら治安の良いティンプーと言えども、
夜道は危ないという事で、夜間に病院からの呼び出しがあるときは、病院の救急車が迎えに
来てくれます。


今日は水曜日ですが、早くも緊急帝王切開、緊急入院、急変と3日連続で
夜間の緊急呼び出しがありました。

夜中の病棟は看護師さんが2人で25人の赤ちゃんを守ってくれています。
といっても看護師さんだけでは到底ケアしきれないため、家族が病棟に寝泊まりして、
24時間付き添い、授乳したりオムツを替えたりしています。


一応、家族には専用の部屋がありますが、大抵満員なので、場合によっては、
床にゴザのような物を敷いて赤ちゃんのベッドの横に寝たりしています。

入院が何ヶ月にも及ぶ事もあるので、家族は本当に大変だと思いますが、
親戚・縁者が皆で支え合い、ひとつの小さないのちがこの世に巣立っていく
日を夢見て、ただひたすらにその時を待ちます。

2011年8月5日金曜日

お見舞い

今日は金曜日。
病棟の仕事を片付けて、かねてからご家族がお悪いと聞いている
同僚のお宅に職場の皆でお見舞いにいきました。

同僚のお母様は、脳梗塞を煩い自宅で臥せっておられ、ご家族が
看病されているのです。
ブータンでは、職場の同僚またはその近しい方(親や子ども)
が病気の場合、お見舞いにいくそうです。

病棟のみんなでカンパして、段ボール箱一杯のお見舞い品を持参し、
お宅に向かいました。

陸軍宿舎の一角にあるお宅はとても広く、客間でお茶を頂いた後、
お母様が療養中の奥の間に通されました。
お母様は食事がとれないという事で、点滴をされていました。

ブータンには老人ホームはありませんので、在宅介護が基本です。
日本のような介護保険制度もありません。
家族や親戚に医療従事者がいればまだ良いですが、それでも
大変である事にはかわりありません。

衛生状態の改善やプライマリヘルスケアの充実により、
ここ30年間でブータンの平均余命は46歳から66歳まで伸びて来ています。
それに伴い、お年寄りの介護をどうするのか、という問題も徐々に顕在化
しつつあります。

ブータンの人々の絆を大切にする文化や、Gross National Happinessの
観点からも、政府はできるだけ施設や病院に収容するのではなく、
地域や在宅でのケアをすすめていきたいとの考え方をもっている
ようですが、ここでも人材確保、財源確保が課題です。

明日は、ここブータンで同じく活動している京都大学ブータン友好
プログラムの同志のカリン高齢者地域ケアプロジェクトの一貫で、
高齢者ケアに関するブータン日本合同国際シンポジウムが京都で開催されます。
http://www.jp.kubhutan.org/project-updates/guojishinpojiumukaicuinoozhirasenew

きっと、お互いの国にとって実り多きシンポジウムとなることでしょう。
どんな議論になるのか、聞きにいけないのがとても残念です。

今日は、絵(写真)ナシで恐縮でが、内容が内容だけにどうかご容赦のほど、、、

2011年8月4日木曜日

病院でのモラルサポート

昨日8月3日はFirst Sermon Lord Buddhaという祝日でお休みでした。

お釈迦様が悟りを開いた後に、最初に教えを説いた日として、
ブータンでも最も縁起の良い日とされているそうで、本来は
一日断食をし、お寺にお参りをしたりして過ごすそうです。

 午前中テレビの据え付けがあったため、午前の回診は当直の
先生にお任せして、私は午後から病棟に出向きました。

病棟ではホスピタル・ラマと呼ばれる高僧に出逢いました。
彼は定期的に病院中を回り、リンポチェと呼ばれる、これまた
偉いお坊さんに祝福を受けたというスンケと呼ばれるお守りの紐
や何種類ものハーブを練り込んで作られた2mm程の正露丸の
ような丸薬を配り歩きます。


興味深いのは、配るのが患者さんだけではなく、その家族、そして職員にまで
等しく配ってくれるということです。

写真は、丸薬を有り難そうに頂く、病院の守衛さんです。



病院にいることで、お寺にいくことが出来ない患者さんや、家族、病院職員
にとって、ホスピタル・ラマは、まさにモラルサポートとして、とても
重要な存在のようです。


翌日、実家でプジャ(法要)をしたというボスが、スンケと医学の守り神である
メディスンブッダ(薬師如来?)のネックレスをくれました。

病院は辛い職場ではありますが、こうして色んな形でモラルサポートが受けられる
と少し気持ちが軽くなり、病気と闘っているのは自分ひとりじゃないと思え、
何となく連帯感が感じられるから不思議です。

病院ではこの日、また一人、赤ちゃんが天に召されました。

私はいつもの通り、メモリアルチョルテンに行ってお祈りを捧げて帰りました。



小雨振る中、この日はいつにも増して、日が暮れても夜遅くまで、多くのティンプー
市民がチョルテンを訪れ、祈りを捧げていたのでした。