2014年11月23日日曜日

新生児蘇生講習会


世界早産児デーとたまたま日程が重なってしまいましたが、
11月17日から20日まで、
私の働くティンプー病院の看護師さんを対象に、
新生児蘇生講習会を開催しました。

新生児蘇生講習会は、普段から既に
看護師さんや若い医師を対象に
私一人で細々と開いていたのですが、
私一人だとどうしても教えられる人数が限られているのと、
私がいなくなった場合の継続性をどうするかなど、
今の体制では問題が多く、
何とかならないかと考えあぐねていました。

そんな中、今回は日本から有志の新生児科医で
旧知の新生児蘇生インストラクターのお二方が、
何と手弁当で助けに来て頂けるということで、
これを機会に、ブータン人の看護師さんにブータン人の看護師さんを
教えられるインストラクターとしての能力を身につけてもらおう、
との趣旨で、特別に実現したものです。

成人教育やそもそも「人に教える」という経験や文化のあまりない、
しかし医療現場の第一線で赤ちゃんを普段から蘇生している
4部署から各3名、計12人の看護師さんを看護部長さんに選抜して頂き、
最初の2日間で、蘇生技術のみならず、シミュレーション教育や
教授法や受講者の心理とどう向き合うか等を講義と実技を通して学んで頂き、
そこで得た知識と経験を早速フルに使って、
残りの2日間で、各12人の多部署の看護師さんで構成された
3つのグループを、日本人インストラクターに見守られながら、
実際に教える経験を通して、インストラクションを
学んでもらうというコースデザインにしました。

これにより、4日間で12人のブータン人インストラクターと、
36人のプロバイダーを養成できたことになります。

これまで、ブータンでは外国からの輸入プログラムを使った
蘇生講習会が大半でした。
それには継続性の問題や、講習内容が実情に遭わない、
統一されていない等と言った問題がありました。

そこで今回は、いずれブータンで、彼ら自身の手で、
彼ら自身の価値観、ブータンの実情にあった
テイラーメイドのNational Neonatal Resuscitation Programを
つくることを想定した第1回パイロットコースでした。

日本の講師陣の熱意と情熱が伝わったのか、
受講生達はとてもモチベーションが高く、
そして終わる頃には部署を超えたチームワークさえ芽生え、
本当に実り多き4日間となりました。

このコースでのフィードバックを生かして、
ブータンの新生児蘇生プログラムをさらによりよいものへと、
日本の皆様の手を引き続き借りながら、
ブータン人の自らの手で作っていってもらえるよう
お手伝いできればと思います。

日本から、お忙しい中来て下さった先生方、
本当に本当にどうもありがとうございました。

心からの感謝を込めて。





2014年11月17日月曜日

世界早産児デー World Prematurity Day

毎年11月17日は世界早産児デーです。
2011年、ヨーロッパで始まったこのムーブメントは、
今や世界中に広がり、昨年我々の新生児病棟でも、
テーマカラーのパープル(紫)で病棟を装飾し、
早産児のご家族を招待して小さなティーパーティを行いました。

今年は2月頃から、早産児の赤ちゃんにプレゼントしたい、
また赤ちゃんの保温の重要性を世間に広く知ってもらいたいと、
私、それからブータン保健省、看護学校の友人との3人の発案で、
手編みのニットの帽子と靴下を作るプロジェクトを始めました。

その後、ブータンの中央部ブムタン地方に伝わる、
赤ちゃんの生存を願い、長寿を全うした人の衣を
継ぎ合わせたおくるみをプレゼントする風習を
もとに作られた子供向けの絵本
「Tshegho - Life of garment-」にならい、
Tsheghoプロジェクトと名付け、
少しずつ、様々なひとびとの努力とご協力で
ひろまりつつありました。

約一ヶ月程前のことです。
オンコール当番で休日に病棟回診をしていたところ、
突然首相が我々の新生児病棟にお見えになりました。
何でも、ご親族のお見舞いに来られたとか。
一通り、病棟をご案内し、ご説明さし上げたところ、
私たちの活動と熱意に非常に心を打たれたと、
首相が自ら今年の世界早産児デーのお祝いに出席したいと
申し出て下さいました。

短い準備時間でありながら、さまざまな人の努力が実り、
患者さんのご家族、ブータン保健省、ブータン医科大学、
国立病院、ボランティア、学生さん、国際機関の方々等、
本当に本当にたくさんの方々のご協力で、
今年の世界早産児デーは昨年を遥かにしのぐスケールで、
無事終えることができました。

首相が大幅に遅刻されて来られた時には、
正直一瞬はらはらさせられましたが、
首相は約束通り会場にお見えになりました。
しかも、王様からの心温まるプレゼントを携えて。

病棟スタッフのいつにもない
とっても明るい表情を見ていると、
彼らにとって、この日の奇跡がまた、
明日からもこれまで以上に赤ちゃんのために、
また家族のために献身的に働く、
良い動機付け、きっかけになった事は
間違いないとの確信が得られました。

地元紙Kuenselの記事
地元テレビ局BBSの記事

この世紀の?一大イベントのみならず、
我々の病棟では、日常診療で普段お世話になっている
30カ所を超える院内各部署にお礼のカードを送りました。

自分たちが、赤ちゃんとその家族のために
一生懸命に尽くせるのは、それを支える
目に見えない助けがあるからという事を、
これからも絶えず忘れず、肝に銘じながら、
日々の診療にあたって行きたいと思います。

心からの感謝を込めて。。。

2014年9月9日火曜日

小児熱帯感染症

ブータンに来て早3年が経ちますが、
今回の一時帰国を機に、ブータンでの所属が、
保健省からブータン医科大学に変わりました。

所属が変わってもこれまで通り、
ティンプー病院で新生児科医として働き、
業務もこれまで通り、臨床・研究・教育が
メインになることに変わりはありません。

ブータン初の後期研修(専門医研修)がこの7月から始まり、
僭越ながら、小児科のコースコーディネーターに任命されました。

よって、これまで新生児病棟で過ごす事が殆どだったのが、
インターンや小児科後期研修医教育の一貫で、
小児科病棟にも足を運ぶ機会が増えてきました。

新生児診療が長い私には、小児科疾患は久しぶりで、
正直とても新鮮ですが、中でも日本の病院では
まずお目にかからないような病気にも、
時に遭遇し、今更ながら大変勉強になります。

例えば、マラリア、デング熱等を初め、
恙虫病、カラアザール等のの顧みられない熱帯病や
人畜共通感染症等がそれです。

日本でも、最近デング熱が国内発生し、
話題になっているようですが、
温暖化やグローバリゼーションに伴い、
ますます熱帯感染症は対岸の火事ではなくなって来ています。

小児熱帯感染症の知識や経験が、
日本の小児科医の必須科目になる日も、
そう遠くはないかもしれませんね。






頑張れ! Made in Bhutan 〜トイレットペーパー〜

ブータンは日用品の殆どを外国からの輸入に頼っています。
輸入先の多くが、インド、タイ、バングラデシュ、中国等の
近隣諸国です。

ブータンに来てから、輸入品で溢れかえる街の商店を見ては、
この国はこれらの輸入相手国と外交上何か問題が起きたら、
途端に大変なことになりそうだと、いつも心配していました。

よっていつ頃からか、できるだけブータン産の物を選んで
買うよう心がけるようになりました。

お野菜も出来るだけブータン産を買うようにし、
晩酌もブータン産ビール。
結婚等のお祝い事の進物も、
できるだけブータン産の工芸品を選ぶようにしています。

しかし、このごろ少しずつですが、変化の兆しが見え始めました。

何と、初の国内産トイレットペーパーが市場にお目見えしたのです。
















原料から全て国産なのか、
はたまたパッケージングだけ国内でやっているのかは
定かではありませんが、国内企業である事は間違いなさそうです。

我が家でも、これまで使っていたタイからの
輸入品のトイレットペーパーをやめ、
これからはこちらを買う事にしました。

ちなみにお値段は、
6個入り120Nu (日本円で約200円)、
12個入り249Nu(日本円で約420円)。

あれ?
何だかこの価格設定おかしいですね。
多く買う程、単価が高くなるって逆でなかったでしたっけ?

割高ではありますが、
それでもブータンのためならと、
しばらく続けられるかぎり、
続けてみようと思います。

使い心地も柔らかくて特に苦になりません。

さらに驚いた事がありました。
パッケージにお客様相談室の連絡先が書いてあり、
欠品、不良品があった場合は連絡するように書いてあるではありませんか。

日本では普通の事ですが、ブータンでは中々なかった事です。

頑張れ!Made in Bhutan.

これからもブータン製品を、日本製品同様応援して行きたいと思います。





2014年6月9日月曜日

初めての東ブータン

ブータンに来て早3年という月日が経ちましたが、
やっと念願が叶い、初めて東ブータンを訪れる機会が得られました。

首都ティンプーは随分近代化が進み、
年々急激な変化を遂げていますが、
東ブータンにはまだ、本来のブータンらしさが残っています。

今回の旅の目的は、保健省が保健医療サービスの
まだ十分に届いていない人々を対象に行う調査に、
調査団として加わえて頂き、保健省の役人と共に、
各地のコミュニティや医療機関を回り、
人々の話しを聞く事でした。

ブータン東部には、6つの県がありますが、
保健医療提供体制には、それぞれに違った悩みを抱えています。

例えば、保健人材の不足はどこも共通ですが、
道路や医療機関へのアクセス、地理的な問題、
まだまだ伝統的な民間療法に頼る人々が多い地域、
季節によって移動する遊牧民族へどうサービスを提供するか等です。

中でも今回の旅のハイライトは、メラクとサクテンという、
人里離れた高所に住み、ヤクと呼ばれる動物と共に生き、
独特の生活と文化を守る人々の村を訪れることでした。

一番近い車道まで歩いて丸一日かかるようなところに
その村々はありますが、そこにもBasic Health Unitと
呼ばれる末端の医療機関があり、Health Assistantと
呼ばれる医療従事者が住民の健康を日々支えています。

私の働く病院には、全国各地から患者さんがやってきますが、
実際その人達がどのようなところから来て、
また退院後どのようなところへ帰って行くのか、
ずっと気になっていました。

今回東ブータンを訪れ、人々の暮らしと、それを支える地域の医療機関、
それを実際に自分の足で歩き、眼で見、人々と触れ合う事が出来て、
大変学びの多い旅になりました。

貴重な機会を与えて下さった、ブータン政府保健省の方々に、
心から感謝したいと思います。

Sakten村の朝日








京都大学病院とブータン王立医科大学との医学交流

2013年10月29日、
京都大学病院とブータン王立医科大学、そしてブータン政府保健省が
三者覚書を結びました。
ブータン王立医科大学として、外国の大学と覚書を結ぶのは、
これが初めてになります。

この覚書のもと、現在京都大学病院から、外科、内科等の専門医、
そして看護師等からなる訪問団が、3ヶ月毎に私の働く
Jigme Dorji Wangchuck National Referral Hospitalを訪れ、
ブータン人医師、看護師達とともに、患者さんの診療にあたっています。

緻密な日本の医療の最先端から、
衛生状態や地理的状況、医療システム等、
様々な面で異なる環境に身を置いてみると、
同じ医療現場でありながら、
また違った景色が見えてきます。

今年から、ブータン王立医科大学では、
専門医を育てる卒後研修プログラムが開始される予定です。

ブータンの医療界の未来を担う医師育成に、
日本の医師や看護師らが、何らかの役割を果たせればと思います。






2014年1月18日土曜日

新人医師オリエンテーション

ティンプーは朝晩まだまだ寒い日が続いていますが、
今週から、ブータンで新しく国家公務員となった
新人医師のための臨床技能オリエンテーションが始まりました。

彼らは、医学部を卒業して間もない、
知識も経験もまだまだ限られる新人医師ですが、
その多くが、医療過疎の地方病院に赴任して行きます。

そこには、県に医師が1人だったり、2人だったり、
そんな地域です。

中には「これは自分の専門じゃないから」といって
患者さんを他の病院に送ろうと思っても、
一番近くの大きな病院まで、
何日もかかってしまう。
そんな地域すらあります。

ですから基本的に、何でも診なければなりません。
妊婦も、お年寄りも、そして赤ちゃんも。

そんな彼らに、私は新生児の心肺蘇生を、
講義し、実習を担当しました。

心肺蘇生は、赤ちゃんの生死を分ける、
大事な知識と技術です。

それをマネキンを使ってハンズオンで、
手取り足取りみっちり練習してもらいました。

こういった技術の習得には、
失敗しても、何回でも何回でも
コツを得るまで試すことのできる、
シュミレーション教育がとっても大切です。

少しでも地方の赤ちゃんの助けになれば、
そういう思いで、ついつい熱くなってしまいましたが、
参加者達もよく応え、とても熱心に練習してくれました。


臨床だけでなく、
こういう医学教育の場にも、
今後も積極的に参画して行き、
新しい世代の医師を育てる
協力が出来ればと思っています。